相続の処理手順

まず,遺言書があればその内容にしたがって,遺産を分けます。ただし,遺言書が有効かどうかを見極めなければなりません。また,自筆証書遺言の場合は,家庭裁判所の検認手続を受けなければなりません。

遺言書がない場合や遺言書があっても無効な場合は,法定相続人が法定相続分に従って,遺産を分けます。

このように言葉で書くと簡単ですが,実際には,遺産の中に不動産がある場合は,その不動産を誰が譲り受けるのか,またその不動産の評価をどうするのか等,多々もめることがあります。不動産をもらう相続人は,なるべくその不動産を安く評価したいと考えますし,不動産をもらわない相続人は,不動産を高く評価しがちです。

遺産分割調停の申立て

相続人間で話し合いがつかない場合は,家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てることになります。家庭裁判所でも話し合いが付かない場合は,裁判所が「このように分けなさい」と審判をしますので,最終的には決着することができます。

寄与分と特別受益の主張

家庭裁判所でもめる典型例は,寄与分と特別受益の主張です。

寄与分の主張とは,相続人のなかに,被相続人の療養看護や財産増殖に貢献した人がいる場合に,他の相続人よりも多くの遺産をもらいたいとの主張です。

特別受益の主張は,被相続人が生きているときに,既に特別な利益を受けた相続人がいる場合(例えば長男だけが1000万円の贈与を受けていた場合),その利益も相続財産に含めて考えて,相続人間で相続分が公平になるように計算することです。

遺産分割調停では,これらの主張がなされることが多く,その主張が法律上正しいのかどうかについて検討するのに時間がかかることがあります。

遺留分

遺留分とは,一定の相続人のために,法律上必ず残しておかなければならない遺産の持分をいいます。これを受ける権利のある者(遺留分権利者)は,被相続人の直系尊属・直系卑属および配偶者であり,兄弟姉妹にはその権利はありません。

例えば,長男だけにすべての遺産を相続させるという遺言書があった場合,遺産を一切もらえない次男は,長男に対して,遺留分減殺請求を行い,一定割合の遺産を請求することができます。

この遺留分減殺請求は,遺留分が侵害されたことを知ったときから1年以内に請求しなければなりません。また,相続開始のときから10年経過しても消滅します。 実際には,1年以内に,内容証明郵便で遺留分減殺請求の通知を行い,その後遺留分減殺請求訴訟を提起することになります。

遺言

遺言の形式には2種類あります(秘密証書遺言や死亡危急時遺言等もありますが,あまり使われません)。

1つ目は自筆証書遺言です。これは自分で紙に遺言内容を記載して署名・押印するものです。

2つ目は公正証書遺言です。これは公証人役場で遺言書を作成するものです。

自筆証書遺言は手軽に作成できますが,遺言の形式を満たしていなかった場合には無効となるので注意が必要です。また遺言書自体を紛失すると事実上遺言書がないことになってしまいます。

公正証書遺言は公証人が遺言内容を確認するので無効になることはほぼありません。また遺言書を紛失しても公正証書役場でも保管しているので,再発行してもらえます。

当事務所では公正証書遺言を推奨しています。

相続問題は法律問題の宝庫

相続問題は,財産が多くて揉めることが多いですが,少なくても揉めることがあります。相続事件は,遺言書の有無,その有効性,寄与分,特別受益の主張,遺留分の侵害の有無,遺産の処分方法等,検討することが多くあり,法律問題の宝庫とも呼ばれています。自分だけで判断すると損をすることがあるのも相続事件の特徴です。